研究室の機器・設備

Research instruments in the lab

安定同位体質量分析装置

 この装置は,炭素,酸素,水素,窒素,硫黄の安定元素同位体の存在比を測定する装置です.例えば,炭素には炭素12 と炭素13 の二つの安定同位体があります.その比率は自然界全体でおおよそ炭素12 が99%,炭素13 が1%程度ですが,例えば植物が光合成をするときには,選択的に炭素12 を取り入れ,炭素13 を排除して二酸化炭素から有機物を合成します.そのため,植物の光合成が盛んであったり,また植物遺体が分解されずに地中に残る割合が大きい時代になると,そのときの有機物には植物が取り込まなかった炭素13 が相対的に多くなっています.このことを過去の環境変動,さらには現在から将来に向けて環境がどのように変化していくのかを理解するために使います.
本研究室には2 台の安定同位体質量分析装置があります(SerCon 社製ANCA-SL とサーモ・フィッシャー社製Delta V) .

SerCon 社製ANCA-SL(2008 年度導入)

ANCA-SL

 この装置は二つの部分からできています.試料を導入する部 分は「元素分析装置型導入部」(写真左側)です.ここでは有 機物を燃焼カップと呼ばれる薄いスズ箔に包んで1000 度の燃 焼炉に落とし,そこでスズを酸化させ,約1500 度にまで温度 を上げて有機物を一気に燃焼させます.燃焼で出てきた二酸化 炭素を,ガスクロマトグラフという,試薬を詰めた管の中を通 過させて窒素などを除去し,それを「質量分析部」に導入しま す. 写真右手にある「質量分析部」は,磁場型質量分析装置とよばれます.電子をぶつけてイオン化させた二 酸化炭素分子を電気的に加速し,磁場の中を通過させます.軽い分子は重い分子よりも磁場の中で曲がりや すい性質を持っていますので,出口に置いた電流計で出てくる分子を定量します.その電流の比率が,試料 の同位体の比率になるわけです.

サーモ・フィッシャー社製Delta V(2009 年度導入)

Delta V
 この装置(Delta V 本体は中央右下)は,ANCA-SL と同じ システムを持っていますが,試料導入部として「元素分析装 置 (NCS2500)」(写真左)だけでなく,「ガスクロマトグラフ (Trace GC)+燃焼装置(Isolink)」(写真中央左),「燐酸注入型 炭酸塩自動処理装置(GasBench II)」(中央右の,本体の上に おいてある装置),「ガス蓄積リザバー式(Dual Inlet)」の導入 部(本体に組み込まれている)を備え,ガス量自動調節装置 (ConFlo Ⅳ)による調整を経て合計4つの導入部分を切り替 えながら分析することができます.また,ANCA-SL では分析できない水素の同位体比も測定できます.炭 素や水素などを含む物質は,実に多様であり,様々な状態なものを分析する必要があります.微量の有機分 子である場合は「ガスクロマトグラフ」を,珊瑚の殻(炭酸カルシウム)を分析する場合は「炭酸塩処理装 置」,手動で二酸化炭素を精製する場合は「ガス蓄積リザバー」を使う,というように使い分けます.

ガスクロマトグラフ

Hewlett Packard 6890;1997 年度導入

Hewlett Packard 6890
有機溶媒に溶かし込んだ有機分子を,マイクロシリンジを用いて導入し, 徐々に温度を上げながら0.25mm という細い管の中をヘリウムの流れに乗 せて通過させます.管の中には膜状に薬品が塗られており,有機分子の揮 発性とその薬品への吸着性そしてそれらの温度特性の違いにより,異なる 分子は異なる時間をかけて,吸着したり揮発しながら出口へ向かって流れ ていきます.出口では水素炎中で出てくる分子をイオン化し,電流として 検出します.定量性に優れています.

ガスクロマトグラフ質量分析計

島津GCMS-QP2010;2006 年度導入

島津GCMS-QP2010_1
島津GCMS-QP2010_2

 上述のガスクロマトグラフの検出部に,質量分析装置を取り付けた形の 装置です.ガスクロマトグラフ部分から出てきた分子は,電子を衝突させ てイオン化されますが,イオン化と同時に分子は割れやすい「割れ口」か ら割れて,「フラグメントイオン」となって質量分析装置の中を通過します. 質量分析装置は磁場型の安定同位体分析装置とは異なり,四重極型です.4 つの電極の電圧を変化させ,通り抜けてくるイオンの質量を変化させ,質 量数20-1000 程度のフラグメントイオンをスキャンします.それぞれの分 子はその分子構造上,特有の割れやすい箇所があり,類似した分子は共通のフラグメント(同じ質量数)を出し ます.従って,特定の質量数をモニターすることで類似分子だけのクロマトグラムを見ることができます.また, 一つの分子がどのような種類のフラグメントを出しているかを調べることによって,分子を構成している「部品」 の種類を調べることができますので,分子の同定に威力を発揮します.自動導入装置により,複数の試料を自動 で分析できます.

  一般には分子は有機溶媒により抽出いたしますが,難溶性の分子や強く他の物 質に吸着している分子などは,熱分解をした上で本装置に導入いたします.その ための熱分解装置(日本分析製JCI22;2009 年度導入)も備えています(右の 写真の青い装置).

有機物高速自動抽出装置

ダイオネクス社製ASE350; 2009 年度導入

ASE350

 堆積物やさまざまな試料から有機分子を抽出するためには,一般にはソックスレーと呼ばれる還流管を用いた抽出装置により,48 時間加熱しながら有機溶媒で抽出しますが,本装置を用いれば20 分程度で抽出が完了します.

二酸化炭素精製ガラスライン

2005 年度導入

二酸化炭素精製ガラスライン

 有機物を真空下で酸化剤と燃焼させたり,あるいは炭酸カルシウムを燐 酸と反応させたりして発生させた二酸化炭素は,水や他の気体と共存して います.この二酸化炭素を質量分析装置で分析し,炭素や酸素の安定同位 体比を調べる前に,蒸留により二酸化炭素のみを取り出す必要があります. これは,そのためのガラス蒸留ラインです.左端にはガラスを真空下で割 る工夫がなされており,-130℃の凝固点まで温度を下げたペンタンと,液 体窒素を使って蒸留し,いったん真ん中の部分にためて気体に戻してガス 圧を測定し,二酸化炭素の量を決めます.さらに,それを右端のガラスパイプに移動させて,ドライアイスの状 態にしてしまいます.二酸化炭素が固体のうちに,ガラスパイプをバーナーで切り取れば,ガラスの中は二酸化 炭素だけが閉じ込められます.これを質量分析装置の前で割って,中の二酸化炭素だけを「ガス蓄積リザバー」 に入れて酸素や炭素の安定同位体比を測定します.